「アメリカ留学はビザの手続きが大変で、費用も高い。それならカナダ留学の方がいいのでは?」
これまで、留学先を検討する際に、このように考える方は少なくありませんでした。
確かに、カナダは英語圏の留学先として人気が高く、アメリカと比較して費用を抑えやすい学校やプログラムもあります。
しかし、2024年以降、カナダ政府は留学生の受け入れを抑制する政策を進めています。2026年には、ILACやEC Englishといった大手語学学校の閉鎖も相次ぎ、カナダの留学業界は大きな転換期を迎えています。
こうした変化を踏まえると、これまでの「カナダならビザが取りやすい」「アメリカより安い」というイメージだけで留学先を選ぶことは難しくなってきました。
今回は、カナダの留学業界で何が起きているのかを整理しながら、これから留学する人が考えておきたいポイントを解説します。
1.カナダの大手語学学校で相次いだ事業停止
2026年9月、カナダの語学留学業界に大きなニュースが続きました。
ILAC:9月18日に全事業を停止
カナダの大手語学学校International Language Academy of Canada(ILAC)は、2026年9月18日、破産保護を申請し、授業やプログラムを即時停止しました。
同校は30年以上にわたり留学生を受け入れてきましたが、公式発表では、過去3年間にわたって財務状況が厳しくなり、教育業界に影響を与える規制変更などを背景に、事業を継続するための資金を確保できなくなったと説明しています。
閉鎖の影響は、語学学校部門だけにとどまりませんでした。
BC州の規制当局によると、ILAC Education Groupには、次の4教育機関が含まれていました。
- International Language Academy of Canada(ILAC)
- ILAC International College
- Tamwood Careers
- Tamwood Language Centres
これらの教育機関は2026年9月18日付で認定を終了しています。つまり、ILACとTamwoodは別々の企業による独立した閉鎖事例というより、同一グループの事業停止として理解する必要があります。
EC English:カナダ以外にも影響が拡大
ILACの閉鎖に先立ち、2026年9月14日には、国際的な語学学校グループEC Englishが学校運営の停止を発表しました。
対象はカナダだけではありません。イギリス、アイルランド、マルタ、南アフリカ、アラブ首長国連邦(UAE)、アメリカを含む世界7か国、合計25校に影響が及びました。
この2つの大手グループの事業停止は、カナダの語学留学業界が直面する問題を考えるうえで、見過ごせない出来事となっています。
ただし、学校の閉鎖をすべて政府の規制だけが原因だと断定することはできません。ILAC自身は規制変更を含む事業環境の変化と財務上の問題を説明しており、EC Englishについても、厳しい財務状況などが背景にありました。
2.カナダ政府はなぜ留学生の受け入れを制限しているのか?
カナダ政府は2024年、留学生の急増に対応するため、就学許可(Study Permit)の申請受付数に上限を設ける政策を導入しました。
背景には、住宅不足や家賃の高騰、公共サービスへの負担など、急速な人口増加に伴う問題があります。
カナダ政府は、留学生を含む一時滞在者の人口を抑制する方針を進めており、2026年も就学許可の発給目標を設定しています。
政府の2026年の計画では、就学許可の発給数は最大40万8,000件とされ、その内訳には新規に入国する留学生向けの15万5,000件と、既存・再入国学生などの延長分25万3,000件が含まれています。
ここで注意したいのは、これらはカナダ全体の就学許可に関する数字であり、語学学校だけを対象とした数字ではないということです。
また、申請受付数の上限、実際の申請件数、許可件数、新規入国者数はそれぞれ異なります。数字を比較する際には、何を数えているのかを確認する必要があります。
3.語学学校にも広がる影響
留学生の受け入れ制限は、大学やカレッジだけでなく、語学学校にも影響を及ぼしています。
Languages Canadaの調査では、加盟校が受け入れた学生数は、2024年の約9万2,500人から2025年には約8万1,600人へと減少しました。
さらに、2024年と2025年の両方について比較可能な加盟校に限ると、学生数は前年比13%減、学生の学習期間を合計した学生週数は19%減となっています。
学生数が減れば、授業料収入だけでなく、学校運営に関わるさまざまな事業にも影響します。
特に、海外からの留学生に大きく依存する語学学校では、渡航者数の減少やビザ審査の不確実性が経営上の負担になり得ます。
もっとも、すべての学校が同じ状況にあるわけではありません。学校の規模、財務状況、提供するプログラム、留学生以外の収入源などによって、影響の大きさは異なります。
大切なのは、「カナダの学校はすべて危ない」と考えることではなく、学校ごとの運営状況やサポート体制を確認することです。
4.カナダの学生ビザ申請は、以前より難しくなったのか?
カナダ留学を考えるうえで、もう一つ重要なのが就学許可の申請手続きです。
現在は、申請者の状況や留学プログラムに応じて、入学許可書、資金証明、必要な場合の州・準州の証明書など、複数の書類や条件を確認する必要があります。
また、申請内容や審査結果によっては、追加書類の提出を求められる場合もあります。
日本から申請する場合の注意点
カナダ政府は、必要な申請者に対して、指紋と顔写真を登録するバイオメトリクス(生体認証)を求めています。
日本国内の登録先として、東京と大阪のビザ申請センター(VAC)が案内されています。
そのため、対象となる申請者が遠方から登録に出向く場合、交通費や必要に応じた宿泊費などがかかる可能性があります。
ただし、すべての留学生が新たにバイオメトリクス登録をする必要があるわけではありません。 過去の登録が有効な場合など、免除・例外が適用されるケースもあります。
また、ビザ申請が厳格化されたからといって、日本人の申請が一律に却下されやすくなったとまではいえません。申請者の経歴、資金状況、留学目的、提出書類などを含めて個別に判断されます。
5.アメリカ留学とカナダ留学、どちらが安い?
これまで、カナダ留学はアメリカ留学より費用を抑えやすいと考えられることがありました。しかし、現在は国名だけで費用の優劣を判断するのは適切ではありません。
留学費用は、学校の授業料、滞在費、保険、ビザ関連費用、渡航費、為替レートなどによって大きく変わります。
例えば、比較する際には次の項目をそろえる必要があります。
| 比較項目 | 確認したいこと |
|---|---|
| 授業料 | 同じ期間・同程度の授業時間で比較 |
| 滞在費 | ホームステイ、学生寮、賃貸住宅など |
| 保険 | 補償内容と加入期間 |
| ビザ・申請費用 | 申請料、生体認証、必要書類など |
| 渡航費 | 航空券、空港送迎、現地交通費 |
| 追加費用 | 教材費、登録料、生活費など |
アメリカの学生ビザ申請には、ビザ申請料に加えて、F-1学生に関係するSEVIS費用などがかかる場合があります。カナダでも、就学許可申請料や必要に応じた生体認証費用などがかかります。
どちらの国の費用が安いかは、申請者の条件や学校によって異なるため、一律に「アメリカの方が安い」「カナダの方が10~15%安い」とは断定できません。
本当に比較すべきなのは、ビザの費用だけではなく、留学期間全体で必要となる総額です。
また、手続きの難しさについても、申請者の国籍や留学目的、学校の種類などによって違いがあります。カナダとアメリカのどちらが必ず簡単だとはいえないため、自分の条件に合った手続きを確認することが重要です。
6.英語を学ぶだけの留学から、目的のある留学へ
もう一つ、これからの留学を考えるうえで重要なのが、留学の目的です。
AI翻訳やオンライン英語学習の普及によって、海外に行かなくても英語に触れたり、英語で情報を得たりする機会は増えています。
そのため、海外で数か月間英語を学ぶこと自体に、以前より高い費用対効果を求める人もいるでしょう。
もちろん、海外で生活しながら英語を使う経験、異文化の中で学ぶ経験、現地の人との交流には、オンライン学習だけでは得にくい価値があります。
しかし、留学費用が家計に与える影響を考えると、渡航前に「何を身につけたいのか」「帰国後にどう生かすのか」を明確にしておくことが大切です。
例えば、次のような目的が考えられます。
- 英語力を高め、大学進学や大学院進学につなげる
- 専門分野を英語で学び、将来のキャリアに生かす
- 現地のインターンシップや、条件を満たした実習機会を目指す
- 異文化環境での経験を通じて、国際的な視野を広げる
目的によって、適した国、学校、プログラム、必要な留学期間は異なります。
費用の安さだけで選ぶのではなく、留学後に何が得られるのかまで考えて選ぶことが、これからますます重要になっていくでしょう。
7.これからの留学先選びで確認したいこと
今回のカナダの動きから学べることは、国や学校の評判だけで留学先を決めないということです。
留学を検討する際には、次の点を確認しておきましょう。
① 学校の運営状況と認定
学校の認定・登録状況、運営母体、キャンパスごとの情報を確認しましょう。認定を受けていることだけで、将来の経営継続が保証されるわけではありません。
② 授業料の返金規定と転校支援
万が一、学校が閉鎖された場合に、返金や別の学校への移籍についてどのような制度があるのかを確認しておくことが大切です。支援制度がある場合も、対象範囲や条件を事前に確認しましょう。
③ ビザの条件と申請手続き
国やプログラムによって必要な書類や条件が異なります。学校の案内だけでなく、政府の公式情報も確認しましょう。
④ 留学の総費用
授業料だけでなく、滞在費、保険、申請費用、交通費、生活費などを含めて比較しましょう。
⑤ 留学の目的と将来へのつながり
英語力の向上、進学、専門知識、キャリア形成など、留学によって得たいものを明確にしましょう。
まとめ:カナダかアメリカかではなく、自分に合う留学を選ぶ時代へ
カナダでは、留学生受け入れ政策の変更や語学学校の経営環境の変化が進んでいます。ILAC、Tamwood、EC Englishをめぐる一連の出来事は、留学先を選ぶ際に、学校の知名度だけでなく、運営状況やリスクへの備えも確認する必要があることを示しています。
一方で、今回の事例だけをもって、カナダ留学全体を危険だと判断することも適切ではありません。カナダにも多様な教育機関があり、学校やプログラムによって状況は異なります。
アメリカ留学とカナダ留学を比較する際も、「ビザが簡単」「費用が安い」といった従来のイメージに頼るのではなく、最新の制度、総費用、教育内容、将来の目標を総合的に考えることが大切です。
これからの留学は、どの国が安いかだけでなく、どの環境で何を学び、その経験を将来にどうつなげるかを考えて選ぶ時代になっています。
留学を検討している方は、国ごとの特徴を理解したうえで、自分に合った留学計画を立てていきましょう。
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